【人事】ビジネス教育〈人事評価制度〉〜企業における査定とは〜

人事/労務/総務

どうもanjinです!

今日は人事分野における『人事評価制度』について書いていきます。年度末になると、多くの会社では査定が各社員に行われ、異動や昇格等を決める「評価会議」が行われます。『人事評価』にはいくつかステップがあるので、今回は全体の流れも含めて説明します。

【人事評価制度とは】

まず「人事評価」は、社員の能力や遂行している業務とその成果、組織・会社に対する貢献度などについて評価することを指します。

『人事評価制度』とは、これらの評価を各社員の処遇や配属、育成へ反映させていき、企業の目標達成や業績向上につなげていく仕組みの1つといえます

人事評価制度は、企業の理念やビジョン、企業戦略ないし事業計画などにもとづいて設計されます。企業によって評価期間のサイクルは異なりますが、四半期や半年、あるいは一年ごとなどに、あらかじめ定められた基準で社員を評価するのが一般的です。

 

【人事評価制度の歴史】

〈年功序列の時代〉

日本の人事評価の歴史を遡ると、1950年代に年功制による評価の原型ができたと言われています。「年功序列」とは、年齢や勤続年数に応じて、役職・賃金を上昇させる人事制度のことを指し、多くの企業で採用されていました。
近年「年功序列の廃止」がうたわれて久しい日本ですが、当時としては「高度経済成長を支えた人事制度」でもありました。戦後間も無い時期、生活の安定と保証が求められていた時代において「年齢に応じて公平に給与を上げていく」という年功序列の仕組みは、雇用を確保するうえでも有効に働いた人事評価制度であったと言えます。

〈成果主義への移行〉

年功序列が一般的だった時代から、成果に応じて給与を支給する「成果主義」へと変化し始めるのが1990年代のバブル崩壊です。長引く不況やグローバル化により、日本企業の労働に対する考え方は変化し、年功序列のような従来の雇用形態は衰退していきます。
しかし、ガチガチな「成果主義」は日本の企業文化に適合しないこともあり、多くの企業が失敗に終わります。そこで「結果だけでなくプロセスも重視」する、MBOやOKRのような新たな評価手法がHR先進国アメリカから持ち込まれ、注目を集めるようになります。

 

【人事評価制度の目的】

人事評価制度の目的は、主に下記3つになります。

  • 適材適所な人材配置と処遇決定
  • 社員のモチベーションアップと人材育成
  • 企業の理念や経営方針を浸透させる

適材適所な人材配置と処遇決定

人事評価制度を明確にすることで、それまで年功序列や上司の主観で行われていた評価制度と比較して、適切な人材配置や処遇の決定が可能となります。同じ基準で社員の能力や貢献度を客観的に見ることにより、その社員が何の業務に適しているのか、そしてどの程度の処遇の価値があるのかを見極められます。結果として、企業全体のパフォーマンスを上げることに繋がります

社員のモチベーションアップと人材育成

適切で明確な評価制度が整っていれば、社員のモチベーションを向上させることもできます。評価される行動や指標、そしてその結果(報酬や昇進・昇格)が明確であるほど、社員はそれを目指して業務に励むことができます。ここで大切なのは、自身の努力が会社のどの評価軸によって処遇に結びつくのかを、社員が理解していることです。

企業の理念や経営方針を浸透させる

企業理念や経営方針・経営課題に沿って作成された人事評価制度は、社員へ向けて企業の方向性を示す身近なツールともなります。人事評価の項目や評価ルールを見れば、その企業の向かおうとしている方向性、そして求める人物像が見えてきます。ここで大切なのは、まず企業の方向性が明確であること、そしてそれが評価軸に適切に反映されていることです。

 

【人事評価と人事考課の違い】

人事評価はオープンなもので、人事考課はシークレットなものにしている企業が多いです。人事考課と人事評価の大きな違いとして、公にしているか、していないかという部分で違いがあります。ただし、同義語としてとらえられるケースもあります。

人事考課は社長や会長といった経営者と人事部の従業員と、部長職課長職の従業員だけが見ることができるシークレットなものです。賃金や昇進など、従業員に対する人事処遇を目的として、貢献度や能力などを査定したものが人事考課です。

人事評価は公にして従業員全員に評価基準を示します。賃金や昇進などへの反映を目的にした査定だけでなく、従業員の能力開発や異動配置の参考なども目的にした評価が人事評価です。

【人事評価制度の評価手法】

人事評価制度の評価方法には様々な手法があり、それぞれメリットやデメリットも異なります。下記で代表的な3つの評価方法について、概要とメリット・デメリットを紹介します。

・目標管理制度(MBO)
・コンピテンシー評価
・360度評価(多面評価)

 

目標管理制度(MBO)

MBOはManagement By Objectives and self-controlの略称で、組織マネジメントの概念として経営学者のドラッカーによって提唱されました。社員自らが目標設定を行い、上司は達成に向けた社員の主体的な活動をサポートし目標の達成度合いに対する評価を行います。MBOは社員の主体的な行動に重きを置くことで、社員の職務遂行能力の向上にも期待できます。

MBOには以下のメリット・デメリットが挙げられます。

メリット
社員の能力開発や人材育成につながる

デメリット
高い評価を得るために目標を低く設定してしまう

コンピテンシー評価

コンピテンシーとは高い業績を上げる人材の行動特性であり、その行動特性を基準におき評価を行うことをコンピテンシー評価と呼びます。評価項目が具体的な行動特性であるため、社員にとっては目標に向かって取り組みやすいのが特徴です。

コンピテンシー評価には以下のメリット・デメリットが挙げられます。

メリット
評価基準が明確であるため公平な評価が可能

デメリット
評価基準とする行動特性が必ずしも成果を上げるとは限らない

360度評価(多面評価)

360度評価は、上司だけでなく同僚や部下、同じ企画を担当するメンバーなど業務上関わりのある多方面の社員が対象者を評価します。偏りのない360度方向から下される評価には、対象者に高い納得感を与えられる効果が期待できます。

360度評価には以下のメリット・デメリットが挙げられます。

メリット
納得を得られる評価内容で改善に取り組みやすい

デメリット
高い評価を得るための行動に偏る可能性がある



【人事評価制度の導入方法】

人事評価制度では、目標を設定、自己評価や上司等からの評価、フィードバック面談という流れで進むのが一般的ですが、実際に人事評価制度を導入するためにはどのような手順が必要なのでしょうか。人事評価制度の導入方法についてご紹介します。

人事評価制度の導入フロー

  1. 評価制度の検討
  2. 評価基準・評価項目の策定
  3. 処遇に関する規程の策定
  4. 評価FMTや評価システムの導入
  5. 従業員への周知
  6. 運用開始

ステップ①:評価制度の検討

さまざまな評価制度があるため、まずは企業の理念や現状の課題を再確認した上で、どういった評価制度を取り入れるべきかを検討しましょう。企業の方向性にあっているか、継続的に無理なく運用できるかという観点で、十分に検証することが重要です。

ステップ②:評価基準・評価項目の策定

取り入れる評価制度が決まったら、次は評価基準や評価項目を明確にしましょう。職種や役職によって求められる成果や能力が異なるため、評価基準や評価項目は職種や役職によって変えることが重要です。従業員を縛り付けるのではなく、モチベーション向上につながるよう意識して策定するようにしましょう。

ステップ③:処遇に関する規程の策定

評価結果を従業員の給与や賞与、昇給に反映させる場合、処遇に関する規定を策定する必要があります。評価結果と、従業員の等級・給与や賞与などの連動が分かるよう明確な規定を作りましょう。就業規則や賃金規定の記載を変更する場合は、監督署に変更の届出が必要です。

ステップ④:評価FMTや評価システムの導入

人事評価制度を円滑に進めるために、評価フォーマット(FMT)を用意しましょう。評価する人によってズレが起きないよう評価項目や基準を明確にし、記入例も作成すると良いでしょう。

また人事評価制度の継続的な実施方法が定まった際に導入を検討したいのが、評価用のシステムです。システムを導入することで、情報の集約や管理の工数削減に役立ちます。検討する際には、まず目的と予算、運用方法を明確にしましょう。その上で、条件に合ったシステムをいくつか選び、見積もりを依頼します。見積もりをもとに人事担当やシステム担当、経営陣で検討し、導入する評価システムを決定しましょう。

ステップ⑤:従業員への周知

人事評価制度によって従業員の処遇が決まるため、運用を始める前には従業員からの理解を得ることが重要です。説明会を開催するなど、従業員へ周知を徹底しましょう。また、制度を円滑に運用するためには、評価をする側になる管理職に対して事前に研修を行い、評価方法について理解を深めてもらうことも必要です。

ステップ⑥:運用開始

従業員への説明が済んだら、人事評価制度の運用を開始しましょう。運用開始後に課題が見つかったら、適宜見直しを行い、企業にマッチした制度へと変えていくことも重要です。

 

【人事評価制度のメリットとデメリット】

《人事評価制度のメリット》

成果が上がる

人事評価制度を導入することで、単純に労働力アップが期待できます。なぜなら、従業員が給与・待遇を上げるために労働意欲が向上するからです。また、評価の指標を示すことで、企業理念・目標設定への理解にもつながります。会社と従業員の方向性のズレを修復する効果もあるでしょう。

人材育成、成長サポート

会社が求める人物像に対して、何が課題で何はOKなのかが、人事評価を通して客観的に明らかになってきます。その課題を来期はどのように教育、研修、勉強、実践をして、成長していくかを上司部下で話し合い、時期に取り組んでいきます。人材育成と、本人の成長のサポートとして、人事評価は最適なツールとなります。

人材の把握ができる

従業員ひとりひとりのスキルや問題点を認識することができます。人事評価の大まかな目的は従業員の現状を評価し、給与・待遇に還元するものです。しかし、従業員のスキルを把握することは、従業員の成長を手助けする第一段階ともいえるでしょう。それぞれの問題点を指摘したり、ひとりひとりにあった目標・研修を提示したりすることで、人材育成に取り組むことができます。

コミュニケーションの促進

部下と上司のコミュニケーションの活性化も期待できます。頑張ったことに対して、会社や上司からのフィードバックがあることで、従業員のモチベーションアップになります。人事評価のための個人面接や目標設定の確認などの時間を設けることで、従業員は相談や提案がしやすくなるでしょう。つまり、会社内でのコミュニケーションの促進は、成果のアップにもつながります。

《人事評価制度のデメリット》

手間がかかる・人事評価のスキルが必要

まず第一に、人事評価制度を導入するための手間がかかります。評価の指標自体が不明瞭であれば、人事評価制度の効用は得られません。明確な目標設定と人事評価者のスキルが絶対条件とされるでしょう。安易に人事評価制度を導入してしまうと、正当に従業員を評価することができなくなってしまいます。

評価が低い人にとっては不満要素となる

どんなに公平に見ていったとしても、評価をするということは、序列ができてしまいます。頑張って貢献してくれる人の評価は高くなり、そうでない人は低くなります。
評価が低い人にとっては、適切であったとしても、不満要素となります。
いままで明確にしていなかったことで、一部の社員から不満が出ることを想定しておく必要があります。

評価される仕事しかしなくなる

従業員たちが評価の向上に囚われてしまう可能性があります。例えば、人事評価で評価されるであろう仕事だけを行う、他従業員の評価が下がるような行動をしてしまうことが予想されます。不適切な評価は従業員への不当な扱いにつながり、従業員全体のモチベーションや生産性の低下の原因になってしまうでしょう。

 

【まとめ】

従業員一人ひとりの評価に基づき給与などの処遇に反映させる『人事評価制度』は、モチベーションや生産性の向上などに寄与するため、多くの企業が取り入れています。

一方で、うまく機能しないと従業員が不満を抱くといった問題が生じる恐れがあるため、企業に合った人事評価制度を導入・運用していくことが重要です。働き方の多様化など時代の変化にも目を向けた人事評価制度により、企業の強化を図っていきましょう。

 

【参考書籍】


改訂新版 小さな会社の人を育てる人事評価制度のつくり方【テンプレート・ダウンロードサービス付】

 

以上が本日のテーマになります。ご覧頂き、ありがとうございました!

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