【管理会計】ビジネス教育 〈原価企画〉

会計(財務会計/管理会計)

どうもanjinです!

今日は管理会計分野の『原価企画』について書きます。前回まで、原価計算やABC等、どのように計算するかという手法の面を解説しました。今回は、計算の前段階である計画部分を説明します。

【原価企画とは】

原価企画とは、製品製造の初期段階での原価管理活動です製品の製造において、実際にコストが発生するのは製造工程ですが、それらの工程で生じるコストは、商品企画や設計、試作など、開発初期段階の活動に左右されます。つまり、コストを適切に管理するためには初期段階にフォーカスした管理体制が求められるということです。

原価企画には、「狭義の定義」と「広義の定義」の2つがあります。

狭義の定義は、次のようになります。

狭義での原価企画の定義

原価企画とは、原価発生の源流に遡って、VEなどの手法をとりまじえて、設計、開発、さらには商品企画の段階で原価を作りこむ活動

すなわち、新商品の企画・開発段階で目標原価を設定し、それを達成するための一連の活動であると考えられます。
このように、狭義の原価企画では、開発設計段階等における新製品の原価を管理することにより、新商品にかかる目標利益を確保しようとするものです。

一方、広義の定義は、狭義の原価企画を含んだ上で、新商品の開発にあたり、顧客のニーズに合致するコンセプト設計や価格設定などの目標設定、また製造段階に入ってからの初期流通段階の活動までも管理対象とするものです。すなわち、原価企画を広義で考えると、次のようになります。

狭義での原価企画の定義

商品の企画・開発に当たって、顧客ニーズに適合する品質・価格・信頼性・納期などの目標を設定し、上流から下流に及ぶ全てのプロセスでそれらの目標の同時的な達成を図る、総合的利益管理活動

上記のように、広義の原価企画は、原価管理だけではなく、新商品のライフサイクルにわたる利益管理も含んだものと考えられます。

 

【原価企画が出てきた背景】

原価企画は、1963年にトヨタ自動車において、原価維持原価改善原価企画という原価管理の3本柱の1つとして考えだされました。その後1970年代に入ると、自動車産業だけでなく、電気、機械、精密機械、ソフトウェア産業など、さまざまな業種へと広がっていきました。企業において、原価企画は原価管理の一環として導入され、そこから利益管理のツールとして発展していきました。特に、今日では製造業だけでなく、サービス業においても広く適用されるツールとして注目を浴びています

 

【原価企画の必要性】

原価企画は、なぜ必要なのでしょうか。

主に下記2点の理由で必要だと考えられます。

理由①:消費者主体で価格が決まるケースが増えているため

一昔前の市場では、製品は作れば売れていました。つまり、製造に多くの原価が必要になっても、それを回収できるだけの価格を設定して販売すれば、利益が生じていたのです。製品製造初期段階では価格のことを考える必要はなく、結果的に費やしたコストを元に価格を決めることが可能でした。

ところが、現在の市場はそうではありません。インターネットの発達や需要の多様化などにより、作っても売れない可能性が高くなっています。たとえ優れた製品を作っても、消費者が価格と品質が釣り合っていないと感じれば売れません。

価格の適不適は、消費者が決めるようになったのです。

そのため、製造する前から、売れる価格で販売できるかどうかを検討する必要が生じました。そこで、製造初期段階に焦点を当てた原価管理手法である原価企画が利用されています

理由②:製品の開発サイクルが短くなっている

現在の市場では製品の開発サイクルが短くなっています。新しい製品を作ってもすぐに埋もれてしまい、迅速に次の製品の開発に着手しなければなりません。

このサイクルを迅速に回すためには、原価を現場で算出していたのではいけません。あらかじめ原価を推定し、それに従って開発することで現場における原価計算の手間を省く必要があります

また、消費者ニーズの多様化により、少量多品種生産が求められていることもこの流れに拍車をかけています。製品の種類数が多いほど、現場での原価計算が大変になるからです。

 

 

 

【原価管理について】

原価企画とは、原価管理の中の一つの行動となります。

では、原価管理とは何なのでしょうか?

原価管理とは、平たく言えば「企画段階から販売まで、製品やサービスの原価を適切に管理することです。
聞こえはとてもシンプルに感じますが、実際の原価管理はそれほど単純なものではなく、非常に複雑なものと言えます。

原価管理を適切に行うためには、原価計算が必要となりますが、主に、原価企画」、「原価維持」、「原価改善の3つのフェーズで考えられています。

原価企画

製品やサービスの企画段階で、原価計算をすることです。
原価企画の段階では、目標利益や妥当利益などを踏まえて、「どれくらいのコストを投じるか?」を考えます。

原価維持

原価企画で決定した原価を維持することです。
プロジェクトが本格的に稼動すると、想定原価を上回ることが往々にしてあるので、製造プロセスなどの改善を行うことで、原価を維持します。

原価改善

製造やサービス展開を開始してから原価を改善することです。
より高い利益を生み出すために、原価を下げるための努力をします。

 

ここで、原価企画から原価維持、原価改善にいたるプロセスの例を一つ挙げます。
企画段階にある製品Aの販売価格は3,000円、そのうち利益を1,000円にしたいと考えた場合、原価に投じるコストは2,000円となります。
この一連の決定が原価企画となります。

実際にプロジェクトが始動すると、予定していた原価を上回り2,200円のコストが発生すると判明することもあります。
その場合に製造工程の短縮によって、原価を2,000円に抑えることが可能になったとします。これが原価維持となります。

製造が本格的にスタートし、PDCAサイクルを回すことで原価を2,000円から1,800円へと下げることに成功した場合、それが原価改善となります。

具体例を見てみると、ごくごく当たり前のことにように感じますね。しかし、実際にこの原価管理を適切に行うことができている企業は、それほど多くはないと思います。

 

【標準原価と原価企画の違い】

目標コストという意味では、標準原価と原価企画は似ていますが、下記のような3つの違いがあります。

開発初期段階に適用されること

標準原価が製造段階で適用される原価管理であるのに対し、原価企画は製品の企画・設計の段階で作りこまれるものです。すなわち、それだけ原価企画の方が原価管理の効果が大きいことになります。

市場志向の管理手法であること

原価企画市場志向のアプローチといえます従来の価格決定方法が実際原価と目標利益から決定されたのに対し、原価企画では、市場志向で考えた予定販売価格から目標利益を先に決めてから許容原価を決定していきます。

  • 従来の価格決定 : 実際原価 + 利益 = 販売価格
  • 原価企画の価格決定 : 予定販売価格 + 目標利益 = 許容原価

関係部門が多様であること

標準原価が、製造、技術が中心となって決定されるものに対し、原価企画はでは、それ以外にも販売、購買、経理、営業など多様な部門との調整の上で実現してきます。

 

【原価企画の注意点】

原価を企画レベルで決定する場合は、下記2点に注意する必要があります。

注意点①:机上の空論にならないこと

原価を企画段階で行う場合、最も陥りやすい失敗が、現場を無視した原価を設定してしまうことです。

企画レベルでは可能と思っている作業の効率化やコスト削減などは、実際には生産現場では不可能であるというケースもあります

特に多品種少量生産が多くなっている現在では作業の効率化にも限界があり、例えば異なる製品を生産するときに都度設備を変更したり洗浄するなどの作業を行わなければならないケースがあります。

このような現場の事情を理解せずに原価を決定してしまうと、生産現場が混乱したり最悪の場合は品質の低下による顧客離れを引き起こしてしまいます。

このため、原価を企画段階で設定するには生産現場とのコンセンサスが不可欠と言えます。

注意点②:これまでの情報の蓄積を活かすこと

原価を企画段階で決定する場合、対象となる製品は新製品であることが多く、担当者も異なるケースが多くあります。

その場合、その担当者がこれまでの情報の蓄積を活かした原価決定を行えるよう、これまでの情報は必要なメンバーに適切に公開されていなければなりません

そのような情報伝達がなければ、どのように原価を設定したらよいかがわからず、却って手間と時間のロスにつながります。

せっかく培ってきたこれまでの現場の経験を活かせるようなフラットな組織作りが必要と言えます。

【原価企画の手順】

原価企画の具体的な導入手順については、下記の3手順になります。

手順①:計画

まず目標原価を決めるために、目標売価を設定します。市場価格・類似価格・希望価格のうち、いずれか一つを決めましょう。

次に目標利益率から目標利益を計算し、目標原価を出します。具体例として、目標売価を1,000円、目標利益率を70%とする場合を考えた場合、一つの商品当たりの目標利益は700円となり、目標原価は300円と算出できます。

手順②:設計

設計段階において原価をなるべく抑えるために、まずは設計どおりに商品を製作してみます。この試作の原価を見積もり、第一段階で算出した目標原価と比較します。「見積原価-目標原価」が、コストカットの目標金額となります。

製品設計・工程設計をするときは、原価を低く抑えた設計を目指すのがポイントです。もちろん、自社の努力だけでは原価を安く抑えられないというケースでは、取引先など他社の協力を仰ぐことも検討します。コスト削減を実現させるために、必要な資材を製造しているメーカーと交渉してみてもよいでしょう。

手順③:評価

最後に、目標原価達成率とコストダウン達成率を算出してどれだけのことを成し遂げられたかを評価します。それぞれ、以下の計算式に当てはめて数字を出してみましょう。

  • 目標原価達成率:目標原価÷標準原価×100
  • コストダウン率:(見積り原価-標準原価)÷見積原価×100
標準原価には第二段階で達成した原価を当てはめます。目標原価達成率が100%を切る場合は、なぜその結果になったのか、今後どんな対策を取れるかを分析します。問題点を洗い出したうえで改善策を立て、次回の商品開発に生かすことが大切です。

【まとめ】

原価企画は、企業が適切に原価管理していくための基本的な概念となるので、これからマネジメント職になる方は、是非この機会に知識として学んでおくことが大切です。

 

【参考書籍】


原価企画とトヨタのエンジニアたち (メルコ学術振興財団研究叢書)

 

本日のテーマは以上になります。ご覧頂き、ありがとうごさいました!

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