どうもanjinです!
今日は財務分野における『与信管理』を取り上げます。企業に勤められている方なら、取引先に対して与信管理を行っている方が多いと思います。基本部分を中心に解説します!
【与信管理とは】
『与信管理』を説明する前に、まず『与信』について説明します。
与信について
与信とは、『相手(取引先)から取引の代金が回収できるまで、相手に信用を供与すること』をいいます。
「信用を供与する」とは、相手に返済能力があるかを判断し、お金を受け取る前に商品を渡したり、取引を進めることです。このような取引は「与信取引」と呼ばれています。
取引が継続的に続いている場合や頻繁に起こる場合は、与信取引をすることでその度に現金のやり取りが発生せずに済むので、円滑に取引を進めることができるでしょう。
しかし、与信取引をすることで、不良債権の増加や支払いの延滞、さらに取引先が倒産した場合には自社にも影響が出るなどのリスクが生まれます。だからこそ、与信管理が大切になってきます。
与信管理とは
「与信管理」とは、取引相手の与信に応じて、取引の限度額を決めることです。言い換えると、その取引で許容できる最大損失額を決めることでもあり、自社のリスクを管理する要です。また、与信管理には限度額を設定するほか、その限度額が適正かどうか取引相手の状況によって適宜見直すことも含まれます。
与信管理の方法は、「与信管理規定」などでルール化されていることが一般的です。このルールに基づいて取引相手の与信を判断し、そのリスクに基づいて安全に取引できる上限額を規定から算出し、その範囲内で取引を開始することになります。
与信限度額
「与信限度額」とは、与信管理によって設定した取引相手ごとの取引上限額のことです。会社が支出できる取引上限額を前提に、取引相手の与信とその取引内容から必要な金額を決めていきます。
与信限度額を決めるには、まずその取引に必要な金額を算定します。具体的には、商談内容に基づいて取引した場合における売掛金残高の見込み額を計算することです。
例えば、毎月の取引額が100万円だったとしても、その回収サイト(支払期間)が4ヶ月という取引を続けた場合、取引を開始して4ヶ月経った頃には売掛債権の残高は400万円に到達します。つまり、この条件で取引する場合、その取引相手に必要な与信限度額は400万円です。
次に、与信管理ルールに基づき、取引相手のリスクと自社の投入可能資金から、その取引相手との上限額を算出します。その金額が400万円以上であれば、この取引は安全に行えるということが判断できるでしょう。
理論上、取引額が常に与信限度額を下回っていれば、万が一の時の損失を許容範囲内で収めることができます。しかし経営の視点で考えると、取引内容によっては、計算式だけで取引金額を决定できないこともあります。
例えば、経営陣が将来的にその取引が会社に必要だと感じれば、上限を上げる判断に至ることもあるかもしれません。あるいは、逆に与信限度額以下の取引であっても、縮小したい部門の取引であれば見直されることもあるはずです。
しかし、日常のほとんどの取引は、与信限度額でリスク管理をしなければ追いつきません。したがって、与信管理に関係する社員は与信管理の意識を持ち、誤った判断で会社にリスクを与えないようルールをしっかり守る必要があります。
【与信管理が必要な理由】
与信管理が必要とされる理由は、主に下記3点あります。
利益を守るため
取引先が倒産するなどの理由で、製品の売り上げ代金が回収できないと、企業は利益を生み出せません。与信管理を行わないと、このような形で利益を損なう可能性があります。
一般的に、企業が製品・サービスを提供する際、前受け金として現金での授受は行いません。取引先を信用し商品を先渡しし(売掛金として処理)、後日まとめて支払ってもらうことが多いです。しかし、確実に代金を支払ってもらえる保証もなく、回収できない場合は、損失を計上することになります。利益の損失を回避するためには与信管理を行う必要があります。
資金繰りの計画が狂わせないため
与信管理ができておらず、取引先からの代金入金の遅延や未回収がおきると、自社の資金繰りが狂い、仕入れ代金・経費の支払いができなくなります。
企業では通常、取引先に製品を売った代金が入金されると、そのお金で仕入れ代金・経費などを支払います。不足した資金は他から調達する必要が生じ、最悪倒産してしまう危険性すらあります。
対外的な信用の低下させないため
与信管理をしていないことで、自社の対外的な信用が低下してしまう可能性があります。取引先企業の管理ができない企業とみなされ、信用が落ちてしまいます。信用がなくなると、逆に自社の与信限度額が減り、金融機関からの借入額、仕入先の売掛金限度額などが減ります。
取引してもらえる企業が減り、結果的に自社の事業が回らなくなってしまうことも起こり得ます。優良な企業として成長し続けるためにも、与信管理をしっかり行い、継続的な取引を行える体制を築くことが大切です。
【与信管理の手順】
『与信管理』を行う手順は、下記4つになります。
1.取引先の信用調査をする
取引先について情報を集め、信用できる取引先であるかを調査します。取引先を訪ねた際に、社内状況の観察やヒアリングを行ったり、登記簿など官公庁の調査内容を利用するのもよいでしょう。
情報の収集ができたら、そのデータを基に分析を行います。分析方法としては、決算書などの数値データを分析する「定量分析」、経営者の資質など数値では表せない特徴を分析する「定性分析」、商売全体の流れを分析する「商流分析」の3つが挙げられます。
情報を収集するには、商業登記簿や有報など公的機関から有料で取得できる情報や、上場企業が開示している決算書、同業他社やインターネットから集める定性情報があります。
業務に余裕があれば担当者を決め、情報を整理するのがよいです。効率を優先したい場合は、企業の情報が集められるサービスを活用しましょう。
2.取引の可否を判断する
取引先が信用できる会社か、取引をしてよいかを判断します。取引先の支払い能力・将来性といった項目に重点を置き判断を行う必要があります。予算管理を行うにあたり、自社基準を設け、ルール化しておくことが大切です。
分析結果を基に企業の強みと弱みを比較し、「強みが弱みを上回っているか」などで判断すると良いでしょう。項目を点数化すると強み・弱みを比較しやすいです。
倒産した場合のリスクを考慮し、支払日などの取引条件を設定し、基本契約書を作成します。
3.与信枠を設定する
与信限度額などの与信枠を取引先ごとに設定します。売掛金が未回収のままで、新たな売掛金が発生する場合などには、与信限度額を超えていないかの確認が必要です。取引先の倒産などによるリスクを最低限に抑えるためには与信枠の設定をしておきましょう。
与信枠の設定方法は、2通りあります。
・自社の純資産や売掛債権残高を基に設定する方法
・取引先の純資産や仕入債権残高を基に設定する方法
与信枠の設定は取引開始時のみではなく、定期的に見直しをすることが重要です。
4.月末時点の売上債権残高と与信枠を比較する
月末には、売上債権残高と与信枠の比較を必ず行いましょう。比較する際の基準として、以下の項目を意識してください。
- 売掛債権の入金が遅れていないか?
- 取引金額の増額されていないか?
- 他社への支払いなどで遅延が生じ、信用力が低下していないか?
売上債権残高と与信枠の比較を毎月行った上で、年に1度は必ず適正な与信枠の見直しを実施します。決算状況の悪化や、決済や取引の条件がきちんと守られているかなどをチェックしましょう。取引先の決算書が開示される時期に行うなど、社内で見直しのためのルールや時期を決めておくことが大事です。
【与信管理の失敗におけるリスク】
与信管理が失敗することにより、焦げ付きや貸し倒れが発生してしまった場合、どのようなリスクがあるのでしょうか。下記4つのリスクが考えられます。
利益の消失
第一に考えられるリスクは、利益の消失です。しかし、これは単にプラスがゼロになったわけではありません。
本来得られるはずであった利益が失われるということは、その利益獲得のために使ったヒト・カネ・モノという資源を失ったのと同じことです。
さらに、損失計上によって決算にマイナスの影響も及ぼします。
損失を取り戻そうとしたとき、営業活動にかかる負担
例えば、利益率10%の商品1,000万円が焦げ付いたとしましょう。
同じ商品で1,000万円の利益を出してこの損失を取り戻そうとすると、同じ商品を1億円分販売することが必要です。
このために必要な営業努力は相当なものと考えられます。
また、この売上を達成しようと無理な営業活動を行えば、さらなる焦げ付きを招く可能性もあります。
資金繰りへの影響
代金(売掛金)の未回収はキャッシュフローにも悪影響を与えます。
商品や原材料の仕入れを行っている企業であれば、売上の入金を当てに支払いのスケジュールを立てている場合も多いでしょう。
しかし、取引先が倒産し、これが回収できないとなれば、資金を別口で調達しなくてはなりません。
資金繰りが狂えば、最悪な場合は倒産を招く可能性もあります。
なお、こうした状況を連鎖倒産と呼びます。
信用の低下
与信管理の失敗は、対外的な悪影響も懸念されます。
「取引先の与信管理ができていない」という評価は、自社の信用を低下させます。
仕入れ先や金融機関からの与信枠が下がり、これまで通りの企業活動が行えなくなる可能性も考えられます。
【まとめ】
与信管理は、取引先との関係を円滑に進めることができることから、ほとんどの企業が当たり前のように行なっています。
与信管理の目的は、取引先からの代金未回収で発生するリスクを排除・低減しつつ、企業の売上・利益を最大化することにあります。
定期的に取引先の与信の確認・見直しを行い、精度の高い与信管理を心がけてください。
【参考書籍】
いまさら人に聞けない「与信管理」の実務【改訂新版】 (いまさらシリーズ―基礎知識と実務がマスターできる)
以上が本日のテーマになります。ご覧頂き、ありがとうごさいました!
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