【会計】ビジネス教育 〈減損会計〉

会計(財務会計/管理会計)

どうもanjinです!

今日は会計分野の『減損会計』を取り上げます。以前に『減価償却』の記事をあげましたが、減損会計も減価償却に密接に関係しています。基礎的な部分を中心に解説します。

【減損会計とは】

減損会計とは、固定資産に関する会計処理のひとつです。簡単にいうと、投資が回収できない見込みが出てきた場合に、その見込みを財務諸表に反映させるための会計処理となります。

新規設備への投資に積極的な経営者の方やM&Aを積極的に活用している企業にとっては、すでに馴染みのある言葉かもしれません。

事業を成長させるうえで、固定資産に対する投資は必要不可欠です。そのため、多くの企業は将来の収益アップを見込んで固定資産を購入するわけですが、期待どおりの結果が必ず出るとは限りません。

会社を成長させることは非常に難しく、失敗するリスクが伴います。そして当初の計画を達成できないと判断したタイミングで、購入した固定資産の価値を回収可能価額まで減額する必要があるのです。

このとき固定資産の価値を減額する会計処理のことを、減損処理(または減損会計)と呼びます。減損処理に関しては厳格な会計基準が設けられており、この会計基準にもとづいて減損処理を行わなければなりません。

【減損処理が必要な理由】

次の2つの理由で減損状態、減損処理が必要となる状況が生じます。

  • 高すぎる価格で資産を購入したため
  • 想定よりも事業利益が見込めないため

こうした理由で、投資金額の全額回収ができない場合、回収可能な金額まで固定資産の価値を下げる減損処理が必要とされるわけです。

減算処理をして評価を下げた固定資産は、通常は特別損失(日本式会計基準の場合)として損益計算書に計上されます。

【減損処理の対象】

減損処理の対象となる固定資産は3種類です。ここでは、減損処理の対象外となる資産も含め、以下の項目に分けて解説します。

  • 有形固定資産
  • 無形固定資産
  • 投資その他の資産

それぞれ順を追って詳しく解説していきます。

有形固定資産

有形固定資産とは、文字どおり形のある資産のことです。例えば、機械や建物などが有形固定資産に該当します。大規模な事業投資を行う場合、新しい設備を導入したり、土地・建物を取得したりするケースも多いです。

しかし、新たな事業投資の雲行きが芳しくないときには、財務諸表上で有形固定資産を減損処理する必要性が生じます。

無形固定資産

ソフトウェア・特許権・のれん(=営業権)などの無形固定資産も、減損処理の対象になります。特にのれんの減損処理は、M&Aシーンで頻繁に見られる手続きです。

M&Aでは、将来性を見据えて買収価格に「のれん代」を上乗せします。のれん代の金額は予測にもとづいて算出するため、実際の収益性とは乖離した金額となるケースも多いです。

M&Aの効果が想定よりも得られない場合には、買収価格に上乗せしたのれん代を回収できなくなるおそれがあります。そのため、のれん代が回収できないと判明したタイミングで「のれん」の減損処理を行い、特別損失を計上するのです。

しかし、のれんの減損処理は、実質的にM&Aの失敗を意味します。M&Aシーンにおいてこのような事態を避けるには、M&Aの専門家からサポートを受けると良いでしょう。

投資その他の資産

「投資その他の資産」とは、投資有価証券などのことであり、こちらも減損処理の対象に含まれます。

購入時よりも時価が著しく減少し回復する見込みがないと判断したタイミングで、有価証券も減損処理する必要があるのです。

【減損処理の手順】

減損処理の手順は、「資産のグルーピング」「減損の兆候」「減損損失の認識の判定」「減損損失の測定」「会計処理」、計5つのステップに分けられます。

日本における減損処理の特徴は、すべての減損損失に関して処理を行うのではなく、一定の条件を満たしている場合のみ減損処理を行うことを求めている点です。そのためいくつかのステップを経て、最終的に処理が行われます。

資産のグルーピング

減損処理の1つ目のステップは、資産のグルーピングです。事業に使われている固定資産は、複数の資産が一体となって使われているケースが多いでしょう。たとえば、工場1棟と工場内に置かれている機械装置の稼働は、一体として利用されているのが通常です。工場と機械装置が、有機的に連動して独立したキャッシュフローを生み出している状態といえます。減損処理においてはも、一体となってキャッシュフローを生み出す複数の固定資産の範囲を特定することが重要になります。この固定資産の範囲の特定が、資産のグルーピングです。

減損処理は、独立したキャッシュフローを生む資産のグループごとに行う決まりになっています。つまりグルーピングを行う場合は、ほかの資産や資産グループからは独立してキャッシュフローを生む資産かどうかを判断することが重要となるのです。グルーピングは、独立したキャッシュフローを生み出す最小単位で、ある固定資産の範囲を特定することだと考えるとよいでしょう。減損処理は、この資産グループごとに処理を行っていきます。

減損の兆候有無の確認

2つ目のステップは、減損の兆候が生じているかどうかの確認です。減損の兆候とは、ステップ1で合理的に判定されたそれぞれの資産グループにおいて、減損が生じている可能性を示す事象のことです。各資産グループにおいて、減損損失に関するすべての計算を行うことは、実務上かなりの手間を要します。そのため資産グループごとに、比較的簡単に判断できる基準を適用して減損が生じている可能性が高いものを抽出するのです。そして減損の兆候があるものだけステップ3に進み、兆候がないものは減損が生じていないとみなして減損処理の適用外とします。

減損の兆候を判断する具体的な基準としては、資産グループが生み出している製品などの市場価格が著しく低下したことや、資産グループが生み出す営業損益やキャッシュフローが継続的にマイナスに陥っていることなどが挙げられます。製品の市場価格低下や営業損益の継続的マイナスだけでは、減損が生じている状態とは断定できません。しかしこれらが起こっている場合は減損が生じている可能性が高いため、次の減損処理に進むかどうかの判定基準として十分役立つのです。

減損損失認識の方法

3つ目のステップでは、減損損失の認識判定を行います。減損損失の認識とは、ステップ2で減損の兆候ありと判定された資産グループについて、減損会計を適用するかどうかの最終判断を行うことをいいます。ここで減損損失を認識すれば、いよいよ減損損失の測定といった詳細な計算をし会計処理を行います。

減損損失の認識は、割引前将来キャッシュフローの総額と帳簿価額を比較することで行います。割引前将来キャッシュフローとは、認識判定の対象となる資産グループが将来にわたって生み出す、すべてのキャッシュフローを合計したものです。たとえば、ある資産グループが将来5年間にわたり毎年100万円ずつキャッシュフローを生み出すと予測される場合は、割引前将来キャッシュフローは500万円になります。これに対してその資産グループの帳簿価額が600万円であれば、将来のキャッシュフローで回収することはできません。そのため割引前将来キャッシュフローの総額よりも帳簿価額が大きい場合に、減損損失を認識できるのです。割引前将来キャッシュフローの総額よりも帳簿価額が小さい場合は減損損失の認識は行われず、次のステップに進む必要はありません。

減損損失の測定

4つ目のステップは、減損損失の測定です。減損損失の測定とは、実際にいくら減損損失が生じているのかについて計算することをいいます。計算式は、「減損損失=帳簿価額-回収可能価額」です。回収可能価額はその固定資産グループが将来回収できるキャッシュフローの総額ですが、ステップ3におけるものとは異なります。回収可能価額を確定させるためには、正味売却価額と使用価値をそれぞれ計算し、いずれか高い方を回収可能価額とすることになっています。

正味売却価額とは、減損損失を確認している時点における時価から売却や処分にかかる費用を控除した金額のことです。資産としての使用を停止して換金したらいくらのキャッシュフローが得られるかを表します。一方、使用価値は、将来に渡って資産グループに含まれる固定資産を使用し続けた場合に得られるキャッシュフローの総額です。この場合の総額は、資産によって得られる「割引後」のキャッシュフロー総額である点も押さえておきましょう。

減損処理の会計処理

最後のステップは、減損の会計処理です。ステップ4において測定した減損損失の金額を、固定資産の帳簿価額から減額する処理を行います。仕訳は、「借方:減損損失/貸方:固定資産」です。ポイントは、減損損失を、複数の固定資産に配分する必要があることです。ステップ4で確定した減損損失は、資産グループ全体の金額となっています。しかし会計処理を行う場合は、各固定資産それぞれの帳簿価額を減額しなければなりません。そのため対象となる資産が1つである場合を除き、減損損失を各資産に配分する処理が欠かせないのです。配分を行う場合は、帳簿価額に基づいて比例配分するなど、合理的な方法で行うようルール化されています。

【減価償却/臨時償却と減損処理の違い】

・減価償却と減損処理の違い

「減価償却」とは、時間の経過とともに資産価値を減少させていく会計処理のことです。たとえば、工場は建物や機械装置といった資産であり、これらは「減価償却」の対象となる「減価償却資産」※に該当する。工場が建てられて事業のために使用を開始した時点から「減価償却」が行われ、資産価値を減少させていく処理が行われます。

それに対して「減損処理」は、資産価値の低下が見られる資産の帳簿価額を切り下げる会計処理です。資産の帳簿価額を減少させる点は同じだが、「減価償却」は計画的に行われる処理であるのに対して、「減損処理」は臨時的に行われる点が異なります。

また、臨時的に資産価値を減少させる「臨時償却」という処理もある。

※:減価償却資産
会社の資産は、大きく2つに分けられる。減価償却を行う「減価償却資産」と、減価償却を行わない資産だ。前者には建物、備品やソフトウェアなどがあり、後者には土地や特許権などがある。

・臨時償却と減損処理の違い

「臨時償却」とは、減価償却計算に適用されている耐用年数または残存価額が、予見できなかった原因などによって著しく不合理となった場合に、耐用年数の短縮や残存価額の修正に基づいて行われる減価償却累計額の修正のことです。

臨時的に行われる点は「減損処理」と共通するが、「臨時償却」が過去の修正であるのに対し、「減損処理」は将来予測に基づいて資産価値を減少させる点が異なります。



【減損処理のメリット】

減損処理のメリットは、主に下記の3点になります。

将来の追加的損失を未然に防止

売上げにつながらないのれん部分などの不良資産を抱えたままにせず、減損処理することで将来の追加的損失を未然に防げます。

一般的に減損処理後の企業の収益性は向上する可能性が高いです。

資産の効率性が上昇

不良資産を減損することで、所有している資産の効率性が高まります。減損処理後に自己資本利益率(ROE)や総資本事業利益率(ROA)の指標が向上します。

こうした数値が向上すると、効率的に会社の資産を用いて利益を生んでいると判断されるでしょう。

減価償却額が減少し、増益の要因となる

基本的に固定資産は減価償却により、一定期間をかけて資産価値を減額していきます。固定資産購入後は、一定期間、減価償却費が利益から差し引かれます。

しかし、減損処理をすれば、固定資産の価値が下がるので、減価償却費も下がり、それが増益の要因となります。

【減損処理のデメリット】

デメリットは、主に下記の3点あります。

株主や投資家に理由を説明する必要

になります。それで他の企業や投資家、株主に経緯や事情を説明する必要があります。

減損処理により利益が圧縮されれば、株主への配当を減らす減配の可能性も出てきます。減配を発表した企業は、先行きが不安とみなされ株式が売却される傾向にあります。

繰越利益剰余金に影響を与える可能性

企業にはその創業以来、毎年計上される利益が貯まったものがあります。それが繰越利益剰余金です。

減損処理をすることで繰越利益剰余金に影響が及び、結果として企業価値や評価が下がるという可能性があります。

M&Aに失敗したことが対外的に明確

減損処理をすることで、M&Aや投資に関する経営判断が間違っていたということを認める形になります。それにより経営陣は株主や投資家から批判の対象となるかもしれません。

【まとめ】

企業はさまざまな固定資産を保有しており、それぞれの能力が十分発揮できるよう物理的な管理をしっかり行うことが大切です。

また同時に、会計的な管理も欠かせません。減損が発生している状態かどうかを会計期間ごとにもれなくチェックし、発生している場合は適切に減損処理を行わなければなりません。

減損処理を間違いなく行えるようにするためにも、会計処理の手順についてよく確認しておくことが重要です。

【参考書籍】


M&A 無形資産評価の実務 (第3版)

 

本日のテーマは以上になります。ご覧頂き、ありがとうございます!

 

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